Q1. 寿司職人の道を選んだとき、何にいちばん心を惹かれたのでしょうか。
最初は、お寿司ではなく日本料理がやりたくて東京に出てきたんです。お寿司は、上京するための一つの手段でした。
数年やっている間に、握るのは面白いなと思うようになりました。ただ、お客さんと接するのは苦手で、最初は怖くて嫌でしたね。
それでもやっぱり日本料理、和食がやりたくて、和食のお店に移りました。そこで、お寿司ってすごいなと再認識したんです。歴史もそうですし、日本人はお寿司が好き。これがいちばんです。何を食べに行くかというときに「日本料理を食べに行こう」とはあまり言わないけれど、「おじいちゃんが来るから、お寿司に行こうか」とはなる。みなさん、お寿司が好きなんだなと。
Q2. 修業時代に学んだことで、いまも生きていることはありますか。
全てが勉強です。いけないことは、やらなければいいという見本になるし、いいなと思えばその仕事を覚える。飲食の世界は、100%合っていることはあまりないので、感性の問題だと思います。学んだことは生きていますが、それを人に「こうだからこうしろ」と伝えることはないですね。自分の中で完結しているので。
修業時代は、つらい思いしかしていないんです。どちらかといえば、悔しかった。好きな人に言われても、悔しかったんですよ。できない自分が悔しい。だから、絶対この人を超えてやる、とずっと思っていました。そういう反骨精神は、人よりすごく強かったと思います。
やっていたのは、悔しい気持ちを忘れずに、ずっと自分に問いかけることです。与えられた仕事を、言われないように、もう一歩、二歩先をできるように、自分の中で考えながら進む。その日々ですね。言われたことをただやっていくだけじゃなく、どうしたらいいのかを自分で考えることが、すごく大事だったかもしれません。
近道はなくて、コツコツやる以外にない。それがいちばん近いんだと思います。
Q3. 独立を決めたとき、どんなお店を作りたいと思っていましたか。
18歳で上京して、10年後の28歳くらいで独立すると決めていたんです。でも、お金の面や、お店を出す勇気がなくて、結局そのときはできなかった。一度、独立からは気持ちが離れていました。
それから、勤めていたお店で、どうしたらお店を繁盛させて、次のステージに行けるのかを考えるようになりました。6年くらい、そのお店にぐっと力を入れて、一度は上がったんです。でも、それがまた下がってしまって。もう一度上げるほうに、気持ちが向かなかった。人のお店でそれをやるのに、疲れてしまったというか。だったら、自分のお店で力を使ったほうがいい、と。
個人でやるので、大きなお店はできません。自分たちが生活していければいい。スタートはそうでしたし、いまもそうです。ここで「おいしいね」と言ってもらって、「ありがとね、また来るね」。その繰り返しが、リピートになっていく。
季節があるので、季節を変化させながら、「あのお店に行くと、いつも同じものしか出てこない」とならないように。季節を楽しめるお店にしたいと思っていました。
Q4. 「縁祐」という名前には、どんな思いが込められているのでしょうか。
ご縁の「縁」です。人と人とのご縁を大切に、という気持ちで使っています。「祐」は、僕の下の名前の「ゆうき」の「ゆう」です。
呼びやすいですよ。僕のことを名指しで「縁祐」と呼ぶ人もいます。ミドルネーム、セカンドネームみたいになっていて、嫌いじゃないです。最後は名前で呼んでくれるんですけどね。みんなの中で「縁祐」と呼ばれると、お店の名前の宣伝にもなるので、嫌な気はしないです。
Q5. 柴崎から調布へ移転して、お店の何を変えたのでしょうか。
柴崎のお店は細長くて、4人で来ても4人が横並びになってしまうんです。テーブルが欲しかった。8人、10人くらいの塊で来ていただけるようにしたかったんです。
柴崎はカウンターの形だったので、2人、3人の少人数の方や、お一人でふらっと来て食べて帰る方が中心でした。コースもあまりやっていなくて、アラカルトのような感じで。こちらは予約のみ、おまかせコースのみでやっています。ターゲットも相場も全然違うので、比べるというより、もう別物ですね。お一人の方もたまにいらっしゃいますが、予約していただいています。
残したかったことは、ないです。こっちのほうが、はるかに良くなっているので。
場所を決めるときは、駅のすぐそばを手放しました。駅から近いことは近いんですが、路面ではないので、普通であれば選ばない場所です。でもいまは、インターネットを頼りに来てくださる方が多いのも事実ですし、普段からおいしいものを出していれば、少し歩いても来てくださる方はいっぱいいるんじゃないかと。
調布市商工会の諸先輩方にいろいろ相談した中で、お一人から「縁祐さんの料理を食べたい人は、少し歩いても来てくれるんじゃないですか」と言われて。そうだなと思って、ここに決めました。
Q6. お客さま一人ひとりに合わせるために、どんなことをしていますか。
一人でやっているメリットは、僕の意思だけで全部完結できることです。僕の感覚を、そのまま落とせばいいだけなので。従業員さんがいると、僕の感覚と従業員さんの感覚が違うから、「いつもはやってくれるのに、今日はやってくれない」ということが起きる可能性がある。一人でやっているから、そういう小回りはすごく得意というか、配慮しやすいのかなと。嫌いなものを食べてもらうより、好きなものを食べてもらったほうが、絶対うれしいと思うので。
たとえば、グループで来られた中のお一人が、生ものが食べられない。食べられるのもマグロやサーモンくらいで、生だと食べられないから炙らないと、という方がいらっしゃいました。加熱すれば食べられるということだったので、その方だけ加熱したものを増やしました。8人で来られたら、7人はいつもと同じで、その1人分だけ別のメニューに変える。お魚が本当に何も食べられない方なら、お肉料理に全部変えてしまうこともあります。そんなにいろいろなことができるわけではないですけど。
1人でやっているからこそ出来る柔軟性なのかなと思います。
Q7. お客さまからは見えないけれど、手を抜かないところはありますか。
お寿司は、酢飯を小さめに握っています。お酒を飲む方が多くて、お寿司は食事というより、おつまみの最後の締めのようなところで出るので。年配の方も多いので、小さいお寿司を出して、食べやすくしています。
それと、前もっての準備です。一人で接客から調理までやっているので、握るだけの準備をしておく。天ぷらなら、揚げるだけの段階まで仕込んで置いておく。手を抜くと、自分も大変な思いをしますし、お客さんにもご迷惑をかけてしまうので。
とにかく仕込み・準備は絶対に手を抜かないように心掛けていますね。
旬なものを最高の形で食べてもらいたい。その想いで毎日準備をしています。
Q8. 初めてのお客さまの好みや、その日の過ごし方を、どのように感じ取っていますか。
会話は、こちらからはあまりしないです。話しかけてきてくだされば話しますし、お一人なら話もします。でも、ご家族4人で来られていたら、その4人の空間で楽しくしてもらいたい。だから、場を壊すように積極的に入っていくことはしません。何かの話の中で、お客さまが僕に興味を向けてくださっているなという目線を感じたときに、会話に入って、コミュニケーションを取っていく感じですね。
お魚の産地なども、興味がある方にはお伝えするようにしています。でも、会話をしている中に割って入ってまで説明することは、すごく考えます。話が終わったくらいのときに「これ、なんだろうね」という声が聞こえたら、「それは〇〇ですよ」と話しかけたりはします。本当にケースバイケースで、その場その場の空気を壊さないようにしようと思っています。せっかくの時間とお金を使ってお店に来て頂いているのですから、居心地の良い空間を作りたい。常に考えて行動しています。
Q9. 地域のイベントに関わるようになったきっかけを教えてください。
お誘いを受けたからです。地域団体の募集をしている担当の方から「やってみない?」というお話をいただいたのが最初です。
やってみようと思ったのは、やったことがなかったから。僕は飲食という縦の世界でしか生きてこなくて、横の世界を知らなかった。地域団体に入って、いろいろな方とコミュニケーションを取ることで、何か変わってくるかなと。
最初に関わったのは、8年くらい前の、わんぱく相撲だったと思います。新入会員なので何もわからなくて、まずは見て、言われたことをお手伝いするという感じでした。そこから徐々に、地域のイベントをやるようになりました。
最近で心に残っているのは、地域の小学生が、屋台で仕込みから調理、販売まで、自分たちで考えてやるイベントです。いままでお客さんとしてしかお祭りに参加していなかった子どもたちが、売る側として、お金をいただいて商品を渡す。将来の仕事の一日体験のようなことができるのは、すごく素晴らしいなと、感動しましたね。子どもたちは「大変だけど楽しかった」と言っていました。
横のつながりができたことは、メリットでしかないです。僕が独立するずっと前から調布で商売をされている方々と関わる中で、いろいろなお話をいただくこともありますし、さまざまな団体の活動のあとの懇親会で、お店を使っていただけるようにもなりました。
今の縁祐を形作っているのは、そういった『商工会や地域団体の諸先輩方のおかげ』だと考えています。
Q10. 出張寿司で、特に記憶に残っている日を教えてください。
飲食の仕事をしている人の中でも、出張をやる人はかなり少ないと思うんです。僕も、出張のご依頼で行くときは、全て緊張しています。電話でのやり取りで、下見はしていないので、行ってみてそこで考えていく。メニューは決まっていますけどね。
お店では、ここにこれがある、というのがいつも決まっていて、僕が立っている調理場の中からの景色は、いつも一緒です。出張は、僕にとっても、ご依頼くださったお客さまにとっても非日常。不安でもあり、楽しみでもある。矛盾しているんですけど、それも含めて刺激になっています。小さな失敗は間違いなくありますが、それをどうこなすか。そのあたりが本当に楽しいですね。
お店に行かずに、自分のところでお寿司を握ってもらえる。その時点でパフォーマンスになっているので、それ以上のことは特にしていません。
印象に残っているのは、都心のホテルの、大きなお部屋での出張です。キッチンがあって、テーブルと椅子、ソファがあって、大きなベランダがあって、サウナまで付いているような。何かの団体さんが集まって、会議のあとの懇親会のお寿司でした。調布の方からのご紹介です。
準備や流れは、いつもとそんなに変わりません。料理のイメージは、自分の中でできているので。出張でいちばん困るのは、器です。使えるものがあるのか、なかったときにどうするのか。最悪のことも考えながら、持っていくものを決める。出張に行く前の準備、想像がいちばん大変かなと思います。
それと最近あったのが、小さいお子さんがいるご家庭で、外の飲食店に連れて行くのが大変だから、おじいちゃん、おばあちゃんを呼んで、おうちで集まろうという出張もありました。「まだ子どもが小さいから外に行けないんだよね、来てくれて助かる」と言っていただきました。
あとは、おばあさまがご高齢で、縁祐のお寿司が食べたいけれど、足が悪くてお店には来られない。だから、お誕生日会をおうちでやる、というご依頼もありました。おばあさまから手を握られて「ありがとうね」と言っていただいた時は胸にジーンと来るものがありましたね。
出張は、本当に1回1回がゼロスタートです。どんな場所で握るのか、どんな場所で作業するのか、行ってみないとわからない。何を言われても、そんなに動揺せずに「分かりました」とできるかどうかが、いちばんかもしれないですね。
Q11. お昼の出前は、どんなきっかけで始めたのでしょうか。
柴崎のお店は、少し離れた場所にあったので、お昼の休憩中にご飯を食べに来ていただくには、少し遠かったんです。そんなに大きなお店でもなかったので、来ていただいても入れないこともある。来づらいなら、じゃあ持って行っちゃおうか、という形ですね。
それをやっていたあとに、コロナが発生しました。皆さんがお店に来られなくなったときも、配達は前からやっていて土台ができていたので、特に不便はなかったです。
逆にやっていて良かったと感じますね。
Q12. これから、縁祐をどんなお店に育てていきたいですか。
身の丈に合った営業です。日々の努力だと思います。
新しいお客さまも、結局は、どこかでの誰かの噂や会話からなんです。ほかのところでご飯を食べている中で「この間あそこに行ったんだよ、よかったよ」というのが広まっていく。お金をかけてお店を紹介してもらうような広め方は、もうするつもりはないです。変なことをすると、一瞬で変な噂になりますから。
この1年で、特に何か新しいことをするというよりは、日々大切にやっていく形です。どちらかといえば、出張にもう少し力を入れるために、何か動いていきたいという気持ちはあります。おうちでもいいですし、会社さんでもいい。そういうふうに使えるということを、もう少し知ってほしいですね。金額や条件がわかりにくいところは、少し課題かもしれません。
そういったところを解決するために今まで無かったHPを新たに開設したりして、課題の解決のために動いています。
Q13. これから、どんな方や場所に、縁祐のお寿司を届けていきたいですか。
会社と、ご自宅ですね。これから忘年会、新年会のシーズンなので、会社の事務所で忘年会をやるときなどに呼んでいただけたら。あとは、ホテルの宴会場で、ケータリングとしてその場でお寿司を握りたいと思っています。
出張費はいただいていません。お店で食べていただくか、僕がそちらに行くか、どちらかというだけなので。出張の場合は、お店のようにできない料理もあるので、お寿司やお刺身がメインになります。
これまで35人くらいまでは対応したことがあるので、40人くらいまでなら行けます。内容によっては、もう少し増やせることもあります。少人数なら、5人様から、お一人6,000円から伺います。
Q14. 最後に、仕事に対して「これだけは譲れない」という思いを聞かせてください。
お寿司を食べるということに対して、楽しい環境、楽しい場を提案したい。非日常も含めて。そのためには、努力は惜しみません。
『近道はなく毎日1歩ずつ』
その言葉を心に刻み込んで、毎日営業をしています。
漫画で読む、渋谷祐輝さんの物語










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