Q1. 現在の事業について教えてください。
株式会社WINE TRAILは、ワインの教育事業を行っている会社です。もともとは「ホームワイン」という事業の立ち上げとともにできた会社なんです。
ホームワインは、ご自宅にいながら、小瓶に詰め替えたグラス4杯分のワインと、それに合わせた私の解説動画が毎月届くサービスです。これが一番メインの事業ですね。

私は独立する前、レストランに勤めていました。その傍ら、副業という形で、ソムリエ試験の対策スクール、つまりプロのソムリエを養成するスクールの講師をしていたんです。それを、いまは自社で行っています。
ですから、いまはホームワインと、ソムリエとワインエキスパートという資格の対策予備校「ホームワインアカデミー」。この2つがメインの事業です。あとはワインのボトル販売なども行っていて、すべてオンラインで完結している会社です。
Q2. ワインの世界に入ってから、独立するまでの道のりを教えてください。
私は今年38になるのですが、21歳からずっとワインの仕事をしてきました。ワインの仕事しかしたことがない人間です。
若い頃は、ソムリエコンクールに打ち込んでいました。日本一のソムリエになって、世界大会に出て、世界一のソムリエになる。そのために、休みの日も全部使って、日夜勉強していました。
若手のコンクールで入賞したりしながら、3年に1回ある、日本一を決める大会にも25歳から続けて出場しました。最後の大会は31か32歳のときで、5位に入賞することができました。
さて、次はどうしよう。3年後の大会で、本当に日本一を目指すのかどうか。人生の岐路に立たされたんです。
最前線でやってきましたが、そこでソムリエという職業の将来を考えました。40歳、50歳になったとき、どんな未来があるのか。
私がソムリエの仕事でいちばん大切にしているのは、「ワインが心の底から好き。ワインにワクワクしている」という気持ちです。私自身がいちばんワインにワクワクしているからこそ、それが受講生にも伝わって、授業を面白いと感じてもらえるんだと思っています。
ただ、ワインの仕事を続けていくうちに、ワインが単なる商売道具になって、ワクワクが薄れていきそうになる時期があるんです。30歳の頃には、たとえばすごく有名なレストランに移ったとしても、正直できてしまうだろうな、という感覚もありました。
それに、正直に言うと、ソムリエ業界の先輩方は尊敬していますが、これまでトップソムリエと呼ばれる方々が歩まれてきた道に、私はワクワクしなかったんです。そうなりたいという憧れを、自分は抱けなかった。これは自分の感情ですから、これからもワインに、ソムリエの仕事に一生ワクワクするために、自分に正直でいようと思いました。
ワインの仕事は、この先も絶対に続けていく。ソムリエという職業を一生やっていくためにも、別の未来があるんじゃないか。そう思っていろいろと動き始めたのが、最初のきっかけです。ソムリエの働き方をアップデートして、これまでにないやり方でワインの楽しさを広めていく。いまのやり方は、そこにつながっています。
形になったのは、コロナの頃でした。ソムリエとワインエキスパートの資格試験の講座も、オンラインに切り替えました。試験にはテイスティングがあるので、オンラインでは無理でしょうと思われるかもしれません。そこで、ワインを簡易的な瓶に詰め替えて送る、ということをやっていたんです。
「さすが佐々木さん、コロナでオンラインに切り替えて伸びましたね」と言われることがあります。でも実は、コロナがきっかけではないんです。
私は札幌から出てきているのですが、東京は、ワインを飲む機会も、ワインの流通も、レベルが全然違いました。札幌にいても、日本一を目指すことはできたと思います。ただ、東京のほうが5倍早い。しかも、そのことに気づいていない人のほうが多いんですよね。
東京の一流の場で私が学んできたサービスを、全国に届けたい。だから私は、オンラインしかやっていないんです。それが原体験になっていますね。
Q3. これまでで、一番苦しかったのはどんなことですか。
2つあります。
1つは、立ち上げの頃のことです。ホームワインは、始めた頃は関わるステークホルダーが多く、何かを決めるのに時間がかかって、事業がなかなか進まない時期が最初の3年ほど続きました。外を向くよりも、内側と向き合っている時間が長かったですね。
その後、体制を整えて、自分たちで決めて動けるようになりました。そこから一気にスピードが出せるようになって、いまはうまくいっています。いまが6年目です。
体制づくりのところでつまずくと、どんなにいいサービスでも、消えてなくなってしまう。そういうサービスは、きっとたくさんあるんだろうなと実感しました。
もう1つは、辛かったというより、いまとなってはうれしい出来事でもあるのですが、ワインを小瓶に詰め替えて届けると決めたときのことです。
ワインは、ボトルに詰まった状態で完結しているもので、ボトルで飲むもの。小瓶に詰め替えることは、タブーとまではいかなくても、どうしても抵抗がある方が多いんです。ただ、日本人はお酒に強くない方も多い。小瓶に詰め替えたら、それだけで広まるはずだ。そう信じて、私なりの信念を持ってやってきました。

実際に始めると、いろいろな方から批判を受けました。すごく信頼していた方からも、こんなふうに言われてしまうんだ、という驚きもありました。
一方で、私はコンクールを通じて、ワイン業界の中である程度の存在感を持っていたので、「佐々木くんがやるなら、おそらく大丈夫でしょう」と信じてついてきてくれる方、応援してくれる方もいました。だからこそ、いまがあります。
本当にいい教訓になりました。ソムリエという職業で一番大事なのは、考え方や向き合い方なんです。レストランに勤めていないとソムリエじゃない、とおっしゃる方もいますが、歴史も時代も変わっていくものだと思います。
いまはむしろ、批判されることは喜びだと思っています。叩かれるということは、それだけ注目されているということですから。そもそも注目されなければ、批判も生まれません。ただ、1回目、2回目と続けて叩かれて、最初から気持ちよくなれる人はいないと思うので、早く経験しておいたほうがいい。昔の自分には、そう言いたいですね。
Q4. お客様とは、どのように出会ってきましたか。
私が直接どこかに出かけて行って、名刺交換をして、そこから申し込んでくださる方は、ほとんどいないんです。基本は広告ですね。
サービスを始めた当初は、10日間で200名ほどに入っていただきました。もともと私がソムリエとワインエキスパートの資格試験の講師をしていたので、応援してくれる方々がいて、その方々が応援がてら入ってくださったんです。
獲得が思い通りにいかない時期もありましたが、ドカンと当たるものもありました。大きかったのはYouTubeです。「ホリエモンチャンネル」に出させていただいたこともそうですし、去年は「通販の虎」という番組に出させていただいて、いまは虎として出演させていただいています。そこで会員数が大きく伸びて、いまは3000人ほどです。
いま長くお付き合いくださっているお客様は、どこかでホームワインを見つけて、入ってきてくださった方々です。当時は毎月、20〜30名ほどのワイン会を開いていて、いまも形を変えて続けています。そこに一度来てくださった方は、毎回来てくださるんですよね。

いまは海外ツアーも年に2回行っていて、即日で埋まるほどのコンテンツになってきました。最初のツアーはアメリカのナパバレーという、一番メジャーなところだったのですが、全然集まらなくて、頑張って8人ほどでした。それが回を重ねるうちに、ワイン会に毎回来てくださる方々を中心に、毎回参加したいという方が出てきたんです。続けていれば、コアな方はどんどん増えていく。続けることも大事なんだと感じています。
じつは、この海外ツアーで気づいたことがあるんです。
もともと私は、「ロイヤルカスタマー」という考え方が、あまり好きではありませんでした。私自身、お金のないところから、お客様に助けられてきた人間です。「勉強になるなら、一杯飲んでみてよ」と、お客様のおかげで上質なワインに触れる機会をいただいてきました。いまでも、学びたいという方からDMをいただくことがありますし、その気持ちは心の中にずっとあります。
ただ、海外ツアーに来てくださる方は、まとまった休みを取ることができて、経済的にも余裕のある方です。会社の社長さんもいらっしゃいます。そして皆さん、本当に人柄のいい方ばかりなんです。
そういう、いわゆるアッパーな層の方がワインを好きになると、その周りにいる方々にも、ワイン好きがどんどん増えていく。実際に、お客様からそういうお話をうかがうこともあります。最初は抵抗があったロイヤルカスタマーという考え方も、やってみると大切なんだなと思うようになりました。特にワインという商材では、そうですね。
Q5. これから、どこを伸ばしていきますか。
直近で一番伸びたのは、ホームワインです。苦しい時期も多少はありましたが、安定的に伸びてきて、いまはオーガニック、つまり自然な流入で会員の方に入っていただける安定期に入ってきています。

だからこそ、次に新しいことをやらなければいけないと思っています。一つは、ソムリエとワインエキスパートの資格講座を、もっとアップデートすることです。この資格試験は難しくなりすぎて、なかなか手が出せないものになってしまいました。そこで、その手前の入り口になるような、もっとライトなものを、動画でたくさん作っていきたいと考えています。
ホームワインと資格試験の講座は、今後もなくならない柱だと思っています。その柱を軸に、ほかのことをどれだけ展開していけるか。そこが、会社が伸びていくうえでの大きなポイントになると考えています。
たとえば、コアなお客様に楽しんでいただくサービスです。少し高額でも、上質なサービスを展開していきたいですし、レストラン事業も考えています。レストランにつなげるときには、クラウドファンディングで、コアなメンバーの方に応援していただく。そういう形ができたらいいなと、最近は思っています。
伸ばしていくうえでの壁は、集客ですね。それだけだと思っています。会員数が増えたら、会社としての組織づくりにも手を入れていかなければいけないと考えています。
私自身が時間を使うべきなのは、100%コンテンツです。理想を言えば、毎日カメラの前で何かしら話していたい。出役は私なので、No.2やNo.3には「私をうまく使って、何とかしてくれ」とお願いしています。細かい業務は、ほとんどNo.2に任せています。
コンテンツといっても、実際に作るところは、私がやることもあれば、任せることもあります。私にしかできないのは、一番最初の「0から1」の部分、アイデア出しです。次にやる講座も、ワイン会のような企画も、アイデアを出すのは私です。いまも次のコンテンツの準備を進めていて、市場調査をしている段階です。アイデアを出すために、刺激になるものや、遊び、体験を、いろいろなところで取り入れるようにしています。
Q6. 仕事をするうえで、譲れないものは何ですか。
適切な言葉が見当たらないのですが、「最先端」でしょうか。ニューテクノロジーのような話ではありません。ソムリエという職業の次の一手を、誰よりも先に思いついて、そのアイデアを発展させて形にしていく。いい意味で、常に議論を呼ぶようなサービスをやっていきたいと思っています。
ソムリエは、どちらかというと固い職業です。ただ私は、お客様の数だけソムリエのあり方があっていいと思っていますし、レストランだけではなく、ワインに携わる仕事はたくさんあります。講師として、プロのソムリエを養成する予備校で教えてきたので、生徒さんも含めて、ソムリエという職業の未来が明るくなってほしい。そのために、ソムリエという職業をアップデートしながら、いろいろなやり方でワインの楽しみを広げていきたいんです。
たとえばいま、AIを触ったこともないのに、否定してしまうソムリエの方も少なくありません。ワインリストは「ソムリエの鏡」と言われるくらい、ソムリエにとっての武器です。そこに膨大な時間がかかっていたのが、AIに読み込ませれば一瞬でできる。そうであれば、ほかのところに時間を使うべきです。
凝り固まってしまうと、その考え方こそが、ソムリエという職業をこの世からなくしてしまうと思っています。新しいものは、すぐに触ってみる。活用できるかどうかを試して、いいと思ったら認めていく。私の下には、いろいろな立場の生徒さんがたくさんいますから、それを繰り返していくことで、ソムリエという職業が、これからも価値のある職業として残っていくんじゃないかと思っています。
私自身も、AIはかなり使っています。たとえば素材を1枚つくるのにも、昔は膨大な時間がかかっていました。でもそこは、本来、人が時間をかけるべきところではないですよね。
そしてもう一つ、講師として大切にしていることがあります。講師が一番努力していないのなら、人にものを教える教壇に立つべきではない。私が誰よりも率先して努力して、いろいろなことを実現していく。私自身も、そういう人に習いたいと思いますから。
Q7. 最後に、経営者の方へ伝えたいことを教えてください。
私は、あまり経営者、経営者という感じではないんです。ただ、ワインがとにかく大好きで。好きなものは、広めたいじゃないですか。
資格なんて、全員が取る必要はありません。でも、ちょっとでもいいから、ワインを知っておくと、絶対に人生の得になる。そう確信しています。ワインは絶対に知っておいたほうがいい。そこには一点の曇りもありません。
ただ、ゴリ押ししても、相手は「うん」とは言ってくれません。だから、どういう角度で伝えれば興味を持ってもらえるかを、いつも必死に探しています。
経営者の方がワインを学ぶ意味を、簡単に言えば、ツールです。私はワインを、最強の武器、エクスカリバーだと思っています。コミュニケーションツールとして、最強なんです。
ワインには、おしゃれなお酒というイメージが、最初はあると思います。でも実は、いろいろなものが詰まっているんです。これまで勉強してきた地理や歴史、経済、政治。点で学んできたものが、線で結ばれる。ワインの背景には、それが全部詰まっています。
ワインは、ぽっと出で作られるものではありません。長い歴史の中で、その土地で人々が過ごしてきた歴史や文化があって、このような味わい、このような香りのワインが作られるようになってきた。料理も同じだと思います。
ですから、ワインを勉強すると、お酒という文脈以上に、歴史や経済、文化、地理の勉強になるんです。ワインを少し語れるということは、教養があることの証明にもなります。
コミュニケーションツールとして、ワインはこの上ない最強のツールだと思っています。